課題解決に向けて

スフィア基準

 1997年、NGOグループと国際赤十字・赤新月運動が開始したスフィアプロジェクトにおいて、紛争や災害の被害者が尊厳のある生活を送ることを目的に策定された基準です。正式には、「人道憲章と人道対応に関する最低基準」といいます。

 スフィアプロジェクトは、以下の2つを基本理念として活動しています。  (「スフィアハンドブック」より)

①災害や紛争の影響を受けた人びとには、尊厳ある生活を営む権利があり、 従って、支援を受ける権利がある。

②災害や紛争による苦痛を軽減するために、実行可能なあらゆる手段が尽くされなくてはならない。

 スフィア基準が生まれた背景には、1990年代の人道機関による国際的な活動の増加や1994年のアフリカ大湖地方の難民危機がありました。これらの出来事によって「多くの人道援助機関及びNGOが共通して使用する人道対応に関する基準が必要である」という認識が高まったのです。(内閣府国際平和協力本部事務局(PKO)「第55回 人道憲章と人道対応に関する最低基準(スフィア基準)」 より)

 スフィア基準は、「スフィアとは」「人道憲章」「権利保護の原則」「人道支援の必須基準」の4つからなる「基本的なことが書かれた4章」とともに、主な支援分野の最低基準について言及した「技術的なことが書かれた4章」から構成されています。主な支援分野として挙げられているのは、(1)給水、衛生および衛生促進(2)食料安全保障および栄養(3)避難所および避難先の居住地(4)保健医療  です。(「スフィアハンドブック」より)

 日本でその基準を満たしている避難所は決して多いとは言えません。スフィア基準では、避難所の一人当たりの広さは3.5㎡とされていますが、内閣府「避難者に係る対策の参考資料」によれば、関東一都四県の二次避難所における避難者1人当たり収容面積の平均は2.54㎡です。

 トイレの数は災害発生から48時間以内では50人に1個、その後20人に1個必要で、男女比で3:1が推奨されていますが、内閣府「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」によると、東日本大震災の際に仮設トイレが避難所に3日以内に行き渡った自治体は約3割に留まっています。

 このように、日本はスフィア基準が達成できていると言い難い状況です。内閣府「避難所運営ガイドライン」では、スフィア基準について、「今後の我が国 の「避難所の質の向上」を考えるとき、参考にすべき国際基準」と述べるにとどまっています。

 スフィア基準はどうして重要なのでしょうか?東日本大震災の経験があったはずの熊本地震でも、避難生活が原因で体調を悪くした被災者が多くいました。実際、熊本地震では災害関連死亡者が全体死亡者の8割近くを占めており、外傷などによる直接死亡者の4倍以上になっています。(熊本県が2019年10月に公表した「平成28(2016)年熊本地震等に係る被害状況について【第296報】」より)

 新潟大学の榛沢和彦氏の調査によると、スフィア基準の項目を満たしていない避難所ほど、災害関連死の原因の一つである血栓が足に見つかる割合が多いと言います。つまり、スフィア基準は災害関連死を防ぐのに役立つと言えます。

 ただ、忘れてはならないのは、スフィア基準の本質は数値ではないということです。「基本的なことが書かれている章を読まず、技術的なことが書かれている各章のみを読むと、最低基準の不可欠な要素の理解を欠いてしまう恐れがある」(「スフィアハンドブック」より)ことから、注意が必要です。数値を達成することももちろん大切ですが、それだけにとどまらず、被災地の文化や食料事情、風土など支援を受ける人々のニーズに合わせて、臨機応変な援助を行うことが重要です。